お雑煮は、地方によってお餅の形や汁の味付けなどが異なりますが、「家族の幸せを願ってつくる」というところは変わりません。今回は、各地方に古来より伝わってきた「お雑煮」についてまとめました。
■お雑煮は大きく8つのタイプに分かれます
全国のお雑煮をお餅と汁の味付けで分類したのが、以下の表です。
お餅の形 |
汁の味付け |
主に伝わる地方 |
角餅 |
すまし汁 |
東日本(京都より東。岐阜、名古屋、三重県四日市なども含む) |
角餅 |
くるみだれ |
岩手県宮古市など沿岸地方 |
丸餅 |
赤味噌 |
福井県福井市、小浜市、鹿児島 |
丸餅 |
白味噌 |
京都、奈良、大阪、神戸、高松、徳島、三重、名張市など |
丸餅 |
小豆汁 |
鳥取、島根県出雲市など |
丸餅 |
すまし汁 |
岡山、島根県江津市、広島、山口、愛媛、高知、長崎、佐賀、福岡、大分、熊本、宮崎など |
あん餅 |
白味噌 |
香川県讃岐地方 |
あん餅 |
すまし汁 |
熊本県宇城地方 |
(しげよし調べ)
前回のブログで、西日本は丸餅、東日本は角餅である理由として、西日本は公家文化由来で、東日本は合理性を尊ぶ江戸文化由来だからというお話をいたしました。お雑煮に入るお餅の形も、その地方がどちらの文化を継承しているかによって分かれるようです。
■あん餅を入れる香川県讃岐地方と熊本県宇城地方
香川県讃岐地方では、お雑煮のお餅にあんこが入っています。あん餅が入る理由として、一説には、江戸時代、砂糖は「讃岐三白」(塩、砂糖、木綿)と呼ばれる特産品のひとつだったことがあげられています。砂糖はぜいたくな献上品で庶民の口にはめったに入らなかったことから、お正月くらいは食べたいと願い、砂糖あんを餅に隠してお雑煮に入れたのが始まりだそうです。熊本県宇城地方でも、畑で採れた小豆をお正月用に大事にとっておき、お餅に入れたと伝えられています。
■京都では具材に「頭芋」が入ります
お雑煮の発祥となったのは、室町時代に貴族たちの宴席などで出された酒肴だといわれています。この酒肴には入っていたのが、熨斗鮑です。鮑は「泡美」とも書き、100年生きると考えられていることから、長寿や生命力の象徴とされてきました。また、鮑の貝殻には魔除けの効果があるといわれます。
もっとも、鮑は銀に代わるともいわれる貴重な食材でした。そこで、京都では鮑の代わりに、頭芋(かしらいも。殿芋とも呼ばれます)をお雑煮に入れるようになったのです。
頭芋とは、里芋や八つ頭、海老芋などの親芋(最初に植えられる、種となる芋のこと)です。お芋は、親芋から子芋、孫芋とできてきます。
このことから、親芋は「頭(かしら)をとる」「親になる」「芽が出る」「子孫が繁栄する」などの意味をもつ、大変縁起がよい食材とされたのです。
今でも、京都のお雑煮には、大人のげんこつほどの大きさがある頭芋がまるごとお椀に入っています。
■武家には「菜鶏雑煮」が好まれました
これに対して、江戸の武家文化で好まれたのは「菜鶏雑煮」です。「菜」と「鶏」に「名を取る」「名を上げる」をかけて、立身出世を願ったのです。すまし汁仕立てなのは、「みそをつける」ことを嫌ったためともいわれています。この菜鶏雑煮は徳川家と関係が深い地域にも伝わりました。名古屋が関西文化圏にも関わらずすまし汁仕立てなのは、尾張徳川家があったからだといわれます。
■具材にもそれぞれ意味があります
岩手県では、宮古市など沿岸地方でくるみ雑煮を食べます。「新年は幸せにくるまれますように」という願いが込められているとのことです。岩手県の郷土料理には、古来よりくるみがよく使われます。宮古市の縄文時代の崎山貝塚からは、4~5000年ほど前のくるみやドングリなどが発見されているとのことです。
また、東日本は鮭、西日本は鰤がお雑煮の具材としてよく使われます。鮭は長い間大海を旅した後、母なる川に戻って産卵することから、「故郷に錦を飾る」という願いを込めて入れるようです。
鰤は、稚魚から成魚になるまで成長に応じて名前が変わること、大きく育つことなどから「出世魚」といわれます。縁起がよいお魚をお雑煮に入れることで、子孫繁栄などをお祈りしたのですね。そのほかにも、「先を見通す」ちくわや、「一年が丸く難なく過ごせる」大根の輪切りなどを入れて、縁起を担ぎます。
お雑煮にかまぼこを入れるのは、魚の骨を抜いて皮をとり、すり身にして、塩で練って蒸すという丁寧な仕事がなされたかまぼこが、本来、ハレの日の食べ物であるからだといわれます。
古来より日本人は、お食事に様々な願いや意味を込めてきました。私どもしげよしも、かけがえのないひとときにご期待以上の品質をご提供させていただくために、皆様の幸せをお祈りさせていただきながら、ひとつひとつ丁寧に料理をおつくりしてまいります。今年もお引き立てのほど、何卒よろしくお願い申し上げます。